平成19年度は、抗血小板薬であるCilostazolが多発性硬化症(MS)の動物モデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)に対して治療効果を有することを見出したが、平成20年度はその作用機序について明らかにした。Cilostazolはphosphodiesterase (PDE) -3を選択的に阻害する薬剤であり、その血小板凝集抑制作用や血管拡張作用により虚血性疾患の治療に用いられている。またCilostazolには接着分子の発現抑制作用もあると報告されている。 B6マウスにMOGペプチドでEAEを誘導し、Cilostazol含有エサを投与するとEAE症状は有意に抑制されるが、EAE誘導後11日目のリンパ球をin vitroにてMOGで再刺激し、細胞増殖反応や培養上清のサイトカインを測定したところ、Cilostazol投与群ではMOG反応性T細胞の増殖反応やIFNγ産生が有意に低下していた。つまり免疫学的バランスのTh1を抑制する方向に作用していた。また血清中の可溶性接着分子をELISAにて測定したところ、EAE症状発症時期にてICAM-1とp-selectinが有意に低下していた。接着分子はEAEにおいて、活性化リンパ球の脳血液関門通過に重要であることが知られている。 以上より、Cilostazolは自己反応性T細胞増殖や接着分子の発現を抑制することによりEAEを抑制することが明らかになった。Cilostazolはすでに市販されている薬剤であることから、将来的にMSの治療薬となる可能性がある。
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