研究概要 |
本研究の目的はアルツハイマー病(AD)の治療標的の一つであるβセクレターゼBACEの制御機構を解明することである。本年度は(i)我々が同定したBACEと相互作用し,そのβアミロイド(Aβ)生成活性を抑制する膜蛋白Reticulon(特にReticulon 3; RTN3)の発現と作用機序(ii)神経細胞におけるBACE発現,細胞内局在の制御機構について検討した。研究成果の概要は以下のようである。C末部,N末部,ループ部の一部を欠損する変異RTN3のBACE結合性,Aβ生成抑制効果について分析した結果,これらの変異RTN3も野生型と同様にBACEと結合し,Aβ生成を抑制した。従って,RTNのC末部,N末部,ループ部はBACEの制御に必須ではなく,膜貫通部が重要であることが示唆された。我々が確立したRTN3発現トランスジェニック(Tg)マウスとアミロイド前駆体蛋白発現Tgマウスを交配し,ダブルTgマウスを作出し,RTN3のin vivoにおける作用の解析を進めている。RTN3のAD病態への関与について調べるため,ヒト(対照,AD)脳内のRTN3発現を検討した。RTN3免疫反応性は大脳皮質の錐体神経細胞に主に認められ,神経細胞内では小胞体,ゴルジ体に局在していた。RTN3蛋白発現量,発現パターンには対照,ADで差がなかった。BACEの翻訳後修飾と細胞内局在の関連性を明らかにするため,BACEのリン酸化,パルミチル化が妨害されるようなアミノ酸置換を持つBACE変異体を安定発現する神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞を樹立した。現在,これらのBACE変異体と野生型BACEの脂質ラフト局在を含めた細胞内動態について比較検討中である。
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