動脈硬化発症・進展の機序として、酸化LDLがMφに取り込まれ粥腫を形成することが重要であるが、はたして酸化LDLのみを低下させることで動脈硬化の進展予防が可能かを検討するため、この1年間研究を行ってきた。 LOX-1とlacZを発現するアデノウィルスを作成し、46週齢のアポE欠損マウスに静脈投与することで肝臓に蛋白発現を誘導した。LOX-1群では肝細胞でのLOX-1蛋白の発現とコントロールに比べ7.4倍の蛍光ラベル酸化LDLの取り込みが認められ、酸化LDLの受容体として機能していることが示された。一方、肝酵素値には両群で差を認めず、組織学的にも肝臓に明らかな炎症所見を認めなかった。血中総コレステロール、LDLコレステロールには差を認めなかったが、血中の酸化LDLと過酸化脂質はLOX-1群で著明に低下していた。また、LOX-1群では血清MCP1の低下とアディポネクチンの上昇を認めた。投与4週後におけるLOX-1群の大動脈動脈硬化面積は投与時とほぼ同程度で、lacZ群に比べ著明に進展が抑制されていた。以上から、LOX-1発現によって肝臓に酸化LDLが取り込まれることにより、血中酸化LDLが減少し、その結果、体内の酸化ストレスも軽減され、動脈硬化の進展が抑制されたと考えられた。動脈硬化の進展には、LDLの中でも特に酸化LDLが重要な役割を果たしていること、さらに、血中から酸化LDLを除去することは動脈硬化の進展を阻止する有効な方策であることが示された。 今後は酸化LDLを除去した状態での大動脈の各種分子の発現、また酸化LDLを取り込むことによる肝臓の各種分子の発現を検討し、酸化LDL低下の生体に及ぼす変化を明らかにしていきたい。
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