研究概要 |
Carbohydrate Response Element Binding Protein (ChREBP)はグルコースにより活性化され、解糖系や脂肪合成系酵素遺伝子の発現を調節する転写因子である。前年度は、ChREBPとヘテロダイマーを形成する転写因子Max-like protein x (Mlx)の機能抑制体(dn-Mlx)を検索し、1つの機能抑制変異体を作成することが出来た。今年度はdn-Mlx発現アデノウイルス(Ad-dnMlx)を経静脈的に感染させたマウスを用いて、生体における糖代謝および脂質代謝への効果を検証した。C57BL6Jマウスは加齢ともに耐糖能が悪化し、高炭水化物食や高脂肪食により肥満糖尿病が引き起こされる2型糖尿病予備軍マウスである。25週齢の同マウスにAd-dnMlxを感染させたところ、ほぼ肝臓に限局して発現を認めた。dnMlx感染マウスは,肝臓型ピルビン酸キナーゼ(Lpk)や脂肪酸合成酵素遺伝子(Fasp)の発現を抑制するとともに血糖の低下および肝臓内中性脂肪含量の低下を認めた。ChREBPノックアウトマウスとob/obマウスの交配実験でみられたような肝臓の著名な腫大やグリコーゲンの顕著な蓄積もみられなかったため.、dnMlxを用いた適度なChREBPの活性抑制は肥満糖尿病病態の改善に有用と考えられた。また、同様のコンセプトでChREBPの標的遺伝子のなかから転写抑制因子を拾い上げ、時計関連遺伝子BHLHB2/DEC1を獲得した。ChREBPはBHLHB2/DEC1遺伝子のプロモーターに直接結合し、活性を正に調節した。さらに、BHLHB2/DEC1はChREBPによるLpkやFasn遺伝子の発現誘導を抑制することを明らかにした。すなわち、ChREBPとBh1hb2/Dec1は脂肪合成遺伝子調節において負のフィードバックループを形成することを明らかにした。
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