我々は、肥満2型糖尿病とその遺伝子座が相関する転写因子AP-2βを同定し、それが脂肪組織に特異的に発現すること、疾患感受性アリルを有する人では脂肪組織でのAP-2β発現量が増加していること、AP-2βの過剰発現により脂肪細胞が大型化することを報告した。MCP-1(monocyte chemoattractant protein-1)は、肥満のごく初期からマクロファージの誘導・活性化作用があり、インスリン抵抗性との関連が報告されているが、その脂肪細胞における発現調節機構については不明な部分が多い。そこで、AP-2βのMCP-1発現に対する影響を3T3-L1脂肪細胞を用いて検討した。アデノウイルスを用いてAP-2βを過剰発現させると、MCP-1のプロモーター活性、mRNA、細胞内および培養メディウム中のMCP-1蛋白量の増加を認めた。DNA結合能を欠失させた変異型AP-2βの過剰発現ではこれらの変化を認めなかった。一方、siRNAを用いて内因性のAP-2βを減少させると、MCP-1発現は低下した。また、MCP-1プロモーター領域に存在するAP-2βの結合推定領域(-137〜-129)を変異させるとそのプロモーター活性が低下した。さらに、その部位の塩基配列に本転写因子が結合することをEMSA法およびChlP Assayにて確認した。以上より、AP-2βはMCP-1発現を正に調節し、炎症を惹起することで脂肪細胞の機能異常をきたし、2型糖尿病やメタボリックシンドロームを引き起こす転写因子であることが示唆された。
|