研究代表者は転写因子であるHNF-1αの遺伝子異常によりインスリン分泌不全を伴う糖尿病が発症することを明らかにした(Nature 1996)。HNF-1αによるインスリン分泌制御の分子機構を検討する過程で代表者らはHNF-1αの標的遺伝子としてACE2に相同性のある新規分子コレクトリンのクローニングに成功した(Cell Metabolism 2005)。コレクトリンはインスリン顆粒の開口放出を促進することでインスリン分泌を制御していた。 膵β細胞におけるコレクトリンの働きの詳細を理解するために、コレクトリンのC末を特異的に認識する抗体を作成し、β細胞株を用いてウエスタンブロットを行なったところ、特異的なバンドが2本検出され、β細胞内においてコレクトリンは切断されている可能性が考えられた。N側にmyc配列を導入したコレクトリン発現ベクターをβ細胞株に導入し、抗myc抗体を用いてウエスタンブロットを行なったところ、細胞培養上清中にバンドが検出され、コレクトリンのN側がβ細胞で切断され細胞外に放出されていることが判明した。コレクトリンはインスリン分泌促進作用を有することから、細胞外に放出された切断型コレクトリンの血中濃度を測定することでインスリン分泌を評価するための新たなバイオマーカーが得られるものと期待できる。そこで現在、2次元電気泳動による分離後に、切断型コレクトリンのスポットを回収し、そのアミノ酸配列の決定を試みている。切断部位が同定できれば、GST融合タンパク質を作成し切断型コレクトリン特異的モノクローナル抗体を作成する予定である。
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