研究課題/領域番号 |
19591060
|
研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
仁木 一郎 大分大学, 医学部, 教授 (10262908)
|
研究分担者 |
金子 雪子 静岡県立大学, 薬学部, 助教 (00381038)
木村 俊秀 大分大学, 医学部, 助教 (60404373)
|
キーワード | 糖尿病 / 膵B細胞 / L-システムイン / 硫化水素 / 細胞死 / 細胞保護 / インスリン分泌 / 高血糖 |
研究概要 |
この研究に先立ち申請者は、含硫アミノ酸であるL-システインが膵B細胞からのインスリン分泌を抑えること、その抑制がL-システインが代謝されて生じる硫化水素(H_2S)に由来することを報告した。H_2Sは、生体内では主にcystathionine-β-synthase(CBS)あるいはcystathionine-γ-lyase(CSE)により含硫アミノ酸L-システインを基質として産生される。今年度の研究で申請者は、マウス膵島におけるこれらの酵素の発現を調べ、CBSが恒常的に発現されているのに対し、CSEの発現は高濃度のグルコースにより誘導されることを見いだした。また、マウス膵B細胞由来の培養細胞株であるMIN6を用いた実験から、高濃度のグルコースによりH_2S産生が増加することを明らかにした。高グルコースによる培養を続けると膵島細胞では細胞死が起きるが、L-システインおよびH_2SドナーであるNaHSは、この細胞死を抑制した。さらに、マウス膵島をL-システイン存在下で培養することにより、培養後のインスリン分泌が増強されることを明らかにした。これらの結果は、誘導されたCSEにより産生されるH_2Sが、グルコースが引き起こす細胞ストレスから膵島細胞を保護する自己防御機構(intrinsic brake:内在性のブレーキ)であることを示唆している。さらにこれらの結果は、H_2Sが構成性酵素(CBS)と誘導性酵素(CSE)の両経路により産生されることを示すものであり、同じガス性メッセンジャーである一酸化窒素(NO)の合成におけるNO合成酵素(NOS)のアイソザイム(cNOSとiNOS)と同様の位置づけにあると考えられ、ガス性メッセンジャーの合成における分業、という観点からも大変に面白い知見である。高血糖が引き起こす細胞死がもたらす膵B細胞量の減少は、糖尿病の進行をもたらすと考えられている。申請者たちは、糖尿病状態における硫化水素産生の意義が、この膵B細胞量減少に歯止めをかける機構であると考え、この膵B細胞保護の機序を明らかにして新しい糖尿病治療への貢献を目指している。
|