研究概要 |
近年2型糖尿病患者数は、生活習慣の欧米化等により増加の一途であり、この対策をとることは急務である。2型糖尿病の原因は、インスリン分泌の障害とインスリン作用の障害などの遺伝因子と肥満、過食、運動不足が重なって発症する多因子遺伝病であると考えられている。遺伝子ターゲティングにより明確なインスリン分泌不全やインスリン抵抗性の動物モデルを作成し、その成因や病態を個体レベルで明確にすることは、2型糖尿病の発症・進展の機序の解明に非常に重要である。寺内らは、世界ではじめてインスリンのシグナル伝達系のPI3キナーゼ遺伝子の調節サブユニットの中でもインスリン作用の主体を担うp85α欠損マウスを作成し検索した(Terauchi Y et al.Nat Genet.21:230-235,1999)。その結果、p50αの代償によると考えられる末梢(筋肉と脂肪細胞)でのインスリン感受性の充進が認められ、低血糖を起こすことが判明した。そこで、同マウスを用いてPI3キナーゼp85α欠損マウスの肝臓における糖代謝を検討した。末梢組織同様、p85α欠損マウスの肝臓ではp50αがインスリン作用を伝達していた。グルコースクランプ法で、野生型に比しp85α欠損マウスで末梢組織でのインスリン感受性は充進していたが、肝糖放出はp85α欠損マウスで有意差は認めなかいが上昇傾向にあった。絶食時の糖新生系酵素のG6PaseとPEPCKは野生型に比しp85α欠損マウスで上昇していた。以上より、p85α欠損マウスの肝臓ではインスリン感受性が充進しておらず、末梢組織でのインスリン感受性亢進による低血糖を予防するため、むしろ肝糖産生が亢進していると考えられた。この機序として、肝臓では筋肉に比してp50αが多く発現していることより、PI3キナーゼの調節サブユニットと活性サブユニットの存在比率がインスリン情報伝達に重要と考えられた。
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