前年度の検討により、2型糖尿病の膵ラ氏島にみられるマクロファージの浸潤と、それにともなう局所での炎症反応や酸化ストレスの増大の成因として、高濃度グルコース(25mM)ならびに高濃度パルミチン酸(PA;0.3mM)にて長時間膵β細胞株のMIN6細胞を培養した際に、細胞からの放出が明らかに増大するmonocyte chemoattractant protein-1(MCP-1)が関与している可能性が示された。そこで今年度は、2型糖尿病において膵ラ氏島と同様にマクロファージの浸潤が認められ、かつ局所での炎症反応や酸化ストレスの増大がインスリン抵抗性の成因と考えられている脂肪組織でのMCP-1発現と放出の変化と、これに関与する細胞内情報伝達系の同定を目的として、以下の検討を加えた。3T3L1脂肪細胞を0.3mM PA存在下に長時間培養したところ、脂肪細胞の肥大化にともなってMCP-1発現と放出の増大を認めた。この細胞の肥大化には内因性の酸化ストレスの増大がともない、一方で抗酸化薬の1つであるN-acetyl cysteinの同時投与により、細胞からのMCP-1放出の増大が有意に抑制された。さらにJNK阻害薬(SP600125やJIP-1 peptide)ならびにI_kBリン酸化阻害薬(BAY11-7085やBMS-345541)の同時投与にても同様に有意な放出の抑制が認められた。しがたって2型糖尿病の存在下での脂肪細胞の肥大化によりMCP-1放出が増加し、その結果脂肪組織へのマクロファージの浸潤が促進されること、そしてその機序の少なくとも一部には内因性酸化ストレスの増大が関与し、その下流のシグナルとしてJNKやI_kBシグナリングが重要な役割を果たすものと考えられた。今後は膵β細胞においても、今回の検討で明らかとなった脂肪細胞と同様の機序が関与しているのか否か、そして他の重要な細胞ストレスである小胞体ストレスの関与の可能性についても、さらに詳細に検証していく予定である。
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