2型糖尿病の成因として、膵β細胞からのインスリン分泌不全とともに、重要な役割を果たしている脂肪細胞でのインスリン抵抗性の分子機構においても、同様に内因性酸化ストレスの増大が関与していること、さらに脂肪組織へのマクロファージの浸潤が観察されることが報告されている。これらの所見は2型糖尿病の膵ラ氏島と類似していることから、脂肪細胞においても膵β細胞と同程度に強く発現していることが知られているchemokineのひとつであるMCP-1と、血管新生とadipogenesisに関与しているVEGFの培養液中への放出の変化を検討した。分化誘導した3T3L1脂肪細胞を用いて、高濃度パルミチン酸(0.3mM)存在下に長時間培養し、人為的な肥大化を誘導したところ、MCP-1ならびにVEGFともに放出の増大が認められた。またこれらの増大は抗酸化剤のひとつであるN-acetyl cysteinの同時投与により有意に抑制された。一方で、MCP-1放出の増大がJNK inhibitorのSP600125やp38MAPK inhibitorのSB203580の同時投与にて抑制されたのに対し、VEGF放出の増大はPI3K inhibitorのLY294002の同時投与により抑制された。したがって脂肪細胞の肥大化によりもたらされる内因性酸化ストレスの増大が、(1) JNK、p38MAPKの活性化を介してMCP-1放出を増大させマクロファージの浸潤を促すとともに、(2) PI3Kの活性化を介してVEGF放出を増加させ新たなadipogenesisを促進して脂肪組織の増大(すなわち肥満)を生じ、これらの結果インスリン抵抗性のさらなる増悪を生じる可能性が考えられた。
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