1型糖尿病の病態は、T-helperl(Thl)タイプの免疫応答の異常であるが、そのTh1タイプのケモカインであるCXCL10のリガンドは、CXCR3というケモカインレセプターである。このCXCL10が作用するために必要なレセプターCXCR3をノックアウトすることで、「CXCL10-CXCR3カスケード」の1型糖尿病発症機構における意義を明らかにできると考え、CXCR3ノックアウトNODマウスを作成した。その結果、CXCR3ノックアウトNODマウスでは、自然経過で早期において糖尿病発症が促進され、さらに、このマウスの脾細胞をN0D-scidマウス(N0Dマウスの遺伝背景を有し、T細胞もB細胞も欠如するマウス)へ養子移入すると移入されたレシピエントであるN0D-scidマウスにおいて著しく激しい糖尿病を来すことが判明した。この事実は、CXCR3陽性細胞分画に強力な免疫制御作用を有する細胞群が存在していたことの裏返しと考えられる。この際、CXCR3ノックアウトN0Dマウスの発症直前には、膵所属リンパ節に免疫制御に関与するサイトカインなどの発現が著しく、膵臓局所においては全く正反対の結果であったことから、CXCR3を欠如することによって膵所属リンパ節から膵臓局所に免疫を制御する細胞が遊走できない状況になっていると考えられた。自己免疫を制御するために、免疫系全体を抑制してしまう介入を行うと(自己免疫は制御できたとしても)悪性腫瘍の出現など別に大きな問題を引き起こすことが予測されるが、CXCR3陽性細胞分画の中のしかも膵臓局所への遊走にのみ関与している細胞が同定できれば、この特異的な細胞群だけを増やして治療に供するなど、安全な免疫制御への道が開け、引いては、1型糖尿病の完治に繋がることが期待される。
|