研究概要 |
小児インスリン治療研究会は1994年に、全国の小児期発症1型糖尿病の治療の向上を目指して、組織化された(Matsuura N et al. Ped Diab 2001;2;160)。その研究の一端として、1995年から1999年の5年間、同じ年齢の患者の血糖コントロール状況を調査するコホート調査を実施した(第1コホート)。1999年以降は内科へ移行したりして、その後の状況は問われていなかった。 そこで、約10年後の2007年から、この第1コホートに参加した患者群の、約10年の合併症状況を調査開始し、この10年間に遭遇した転院、思春期が、どのようにHbA1cに影響したかを検討する研究を開始した。これは、現在の糖尿病性合併症状況を調査し、この合併症の有無と思春期前である今から15-10年前の血糖コントロール状況、小児科から内科への移行の有無などとの関連を解明するものである。 過去の不良な血糖コントロールの時期があると、その後たとえそれより良好な血糖コントロールを継続していても糖尿病性合併症を発症しやすい、ことがはじめて報告されたのが、アメリカの1型糖尿病患者を中心としたDCCT調査後のEDIC調査においてである(NEJM 22;2643,2005)。強化血糖コントロール群と従来血糖コントロール群の2群が約10年間それぞれの目標HbA1c値で進行し、その後は両群ともその中間値のHbA1cで経過観察されたところ、中間のHbA1c値でありながら、過去の強化群のほうが有意に合併症発症が抑制されていることがわかった。その後10年経過しても、大血管障害までも発症抑制されているという(NEJM22;2643,2005)。これを、メタボリック・メモリーと呼ぶ。 本調査は、日本人小児期発症1型糖尿病患者においても、同様のことが明らかにされるか、血糖コントロール以外の他の要因が成長後の糖尿病性合併症発症に影響していないか、を明らかにするものであり、日本人1型糖尿病におけるメタボリック・メモリーの存在を明らかにすることを目指す。
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