視床下部ヒスタミンH1受容体を介する生体リズム調節とエネルギー代謝調節のクロストーク機構を明らかにするために、平成20年度は以下のような研究成果をあげた。1)肥満発症モデルである卵巣摘出マウスは食行動の概日リズムが破綻している。2)エストロゲンの末梢投与で神経ヒスタミンの代謝回転が亢進し、摂食行動が抑制される。3)エストロゲン投与による摂食抑制反応はH1受容体欠損マウスで減弱される。4)視床下部TMNのヒスタミン神経細胞体にエストロゲンα受容体が存在する。5)卵巣摘出マウスの過食と肥満はエストロゲンの補充で改善されるが、H1受容体が欠損した卵巣摘出マウスではエストロゲン補充による効果がほぼ消失する。以上の研究成果から卵巣摘出による過食、肥満、食行動リズム異常の発症に神経ヒスタミンとH1受容体が深く関与していることが示唆される。閉経後の女性の肥満発症とリズム異常の関連性を考える上で臨床的にも重要な研究成果であると考えられる。さらに昨年度の研究でその一部が明らかになった、神経ヒスタミンによるリズム調節機能における視床下部以外の脳部位の関与について引き続き解明を進めた。その結果以上の研究成果が得られた。7)前頭前野のinfralimbic cortex(IL)の破壊は神経ヒスタミンの代謝回転を低下させる。8)IL破壊により体重が増加する。9)IL破壊は摂食量に影響せず、活動量を低下させる。10)IL破壊により食行動、活動性、体温の日内変動のリズム異常が生じる。11)オレキシンのIL内微量注入によって食行動が誘発される。12)ILおよび扁桃体へのヒスタミン微量注入により、すくみ行動などの情動行動が発現される。13)それらの情動行動発現は明期と暗期など、ヒスタミンの投与時期によって変化する。以上の研究成果からILはオレキシンや神経ヒスタミン機能と連動することで食行動やリズム調節に関与していることが示唆される。また情動行動発現にも神経ヒスタミンの概日活動リズムが関与している可能性がある。
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