体液を構成する主要イオンであるNa^+は細胞機能に不可欠だが、陸上動物にとっては摂取が困難なために体外への排出はできるだけ抑えたい。定説では、「心房の伸展によって分泌されるANP(Atrial natriuretic peptide;心房性ナトリウム利尿ペプチド)によってNa^+を体外に排出」ということになっており、大切なNa^+を濃度測定することなく捨ててしまう。2002年に新型Na^+チャネルである「濃度感受性Na^+チャネル(Na_cと略記;c=concentration)」の概念を確立した私は、このNa_cがANP分泌やNa^+の排出機構に関与していると想定して実験を行った。 【1.細胞外Na^+濃度変動による培養心筋細胞の収縮と細胞内イオン濃度の変化】定説が挙げているい「心筋の伸展」を除去して調べるために、胎生後期および新生仔から得た単離培養心筋細胞を使って、細胞外Na^+濃度を変動させた時の筋収縮変化をビデオカメラで撮影し、[Na^+]iと[Ca^<2+>]iの変化をイオン感受性傾向色素を使用して画像解析装置で観察した。さらに、心筋細胞から分泌されるANP量をELISA法で測定した。高濃度Na^+(190mM)では、拍動のリズムが可逆的に乱れ、[Na^+]iと[Ca^<2+>]iの両者とも上昇し、ANP分泌も増大した。このような変化は、心筋細胞に代謝抑制剤(CCCP)を与えた場合とほぼ同様であった。 【2.細胞外Na^+濃度変動による心収縮機能の変化】成熟マウスの右心房を溶液潅流し、自作の張力測定器で収縮力の変化を測定した。高濃度Na^+で収縮力が減少し、収縮のリズムも不整となった。 以上の結果から、定説以外の要因である「細胞外Na^+濃度」が心臓の機能とANP分泌に影響を与えていることと、その変化の一因としてミトコンドリアの関与が考えられることが判明した。
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