初年度は培養心筋細胞を使用して細胞レベルで課題を追求した。今年度は、心臓を用いて(特に右心房を使用)、臓器レベルでの研究を進めた。 細胞外Na^+濃度([Na^+]。と略記)変動によるマウス心機能の変化 細胞内記録法という電気生理学的手法でマウス右心房筋細胞の活動電位を記録し、高[Na^+]。で活動電位の振幅と電位変化速度(電流)が減弱する事を観察した。この活動電位減弱が心収縮機能低下の一因である。 ≪[Na^+]。上昇による心収縮細胞内ATP量の減少≫ 高[Na^+]。による心機能低下の原因は心筋細胞内Na^+濃度上昇によるミトコンドリア機能の低下ではないかと考え、高濃度Na^+溶液潅流後の心房を破砕してATP量を測定した。浸透圧亢進ではなくNa^+自体の上昇によって有意にATP量が低下することが判明した。 ≪[Na^+]。上昇による心機能低下のナトリウム利尿ペプチドによる回復作用≫ ストレインゲージを使って、心臓収縮力を測定した。高[Na^+]。で出現した収縮力低下は、ナトリウム利尿ペプチド(ANPまたはBNP)によって回復したがCNPは無効であった。この心機能に対するナトリウム利尿ペプチドの作用は、生理的Na^+濃度下では僅かしか認められなかった。 【結論】以上の実験結果から、細胞外Na^+濃度上昇は心筋細胞活動電位を抑制するだけでなく、心筋細胞内Na^+濃度の上昇を起こしてミトコンドリアの機能を低下させ、ATP産生量減少によって心臓の張力低下・心拍数減少・リズム不整が起こる。このような異常現象を補償するために、心臓はナトリウム利尿ペプチドを自ら分泌して機能を元に戻そうとする、と考えられる。
|