研究概要 |
核内受容体PPARs(peroxisome proliferator-activated receptorα,β,γ)のリガンドは糖質代謝調節機能に加えて、19種の癌細胞に対しては増殖抑制効果を示す。我々はPPARγの機能の一つである脂肪細胞の分化誘導能を指標にフェニルプロピオン酸化合物TIPP703を創製した。この化合物はPPARα,β,γを同等に活性化する特徴を持つ。このTIPP703は膵がん細胞株のpanc-1及びPT-45の増殖を濃度依存的に抑制した。TIPP703による脂肪細胞の分化誘導能は既存のPPARγリガンドであるロジグリタゾンと同等であったが、膵がん細胞の増殖抑制効果はロジグリタゾンより強く、増殖抑制機能へのPPARα,βの関与が示唆された。またフローサイトメトリー法によりTIPP703を処理した膵がん細胞の90%がG_0G_1期(DNA合成準備期)に止まり、S期(DNA合成期)への移行が阻害されている事を明らかにした。TIPP703による遺伝子発現の変化をマイクロアレイ法により解析し、アンジオポエチン様因子4(ANGPTL4)のmRNAが特異的に増加することを見いだした。ANGPTL4のmRNAの発現をRNAiで抑制するとTIPP703による増殖抑制効果も減少した。このとき膵がん細胞で発現しているPPARα,β,γのmRNAは不変であった。この結果は、ANGPTL4がTIPP703による膵がん細胞の増殖抑制作用に関与しかつ必須である事を示している。ANGPTL4はPPARα,γで発現が調節される分子である事が知られており、強制発現により癌の転移を抑制し、空腹時にリポプロテインリパーゼ活性を抑制するなど多彩な機能が報告されている。
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