肥満は、高血圧・心血管障害・糖尿病などの生活習慣病を頻発させ、その治療と予防は医学的・社会的に大きな課題である。摂食・エネルギー代謝調節の分子レベルでの病態の解明は、近年急速に進んでいる分野であり、肥満のみならずそれに起因する生活習慣病を総合的に治療する新しい治療法の開発につながるものと期待される。 申請者らは、2005年にオーファン受容体発現細胞系を用いたアッセイ系によるリガンドスクリーニングにより、ニューロメジンS(NMS)と命名した新規の生理活性ペプチドをラットの脳より単離した。本ペプチドはその生理作用の一つとして、摂食抑制作用を有することを報告しているが、20年度は、脳室内投与によりNMSが視床下部室傍核および視索上核に作用し、バゾプレッシン分泌刺激に加えてオキシトシン分泌も促進することを示し、NMSは内因性の神経内分泌調節因子であることを明らかにした。 また、新規摂食促進ペプチド;グレリンは、消化管ペプチドであるガストリンにより胃からの分泌が促進し、さらに、グレリンとガストリンは、胃酸分泌刺激に対して相乗効果を有していることを明らかにした。 新たな生活習慣病に関連するペプチドの探索を目的として、脳、消化管および脂肪組織に発現するオーファン受容体の安定発現細胞株を作製するとともに、オーファン受容体を用いた新規内因性リガンドの探索ための新たな方法の開発を行い、新規生活習慣病関連ペプチドの探索を進めた。また、肥満やエネルギー代謝調節に関与する一つのオーファン受容体に対するアゴニスト活性を、既知ペプチドとは明らかに異なる分画に検出し、本活性物質の精製を進めた。
|