研究課題
最近、HIF-1は糖代謝経路の方向性の決定において重要な機能を果たす糖代謝酵素Pyruvate dehydrogenase kinase-1(PDK-1)の発現を誘導することが明らかになった。PDK-1は、糖代謝経路をミトコンドリアでの酸化的リン酸化から乳酸代謝経路ヘシフトさせ、ミトコンドリアでの酸化的リン酸化を抑制することにより、ミトコンドリアでの活性酸素産生を抑制する。これより、低酸素状態において、HIF-1はPDK-1の誘導を介して、低酸素状態における過剰な活性酸素産生を抑制する機能を持つこと、すなわち活性酸素に対する防御システムとしても機能することが想定された。このような知見に基づいて、我々は、HIF-1は低酸素のみならずサイトカイン刺激後の活性酸素産生にも抑制的に機能することを予想した。この仮説を検証するために、thrombopoietin(TPO)依存性細胞株UT-7/TPOを用い、まず、TPOがPDK-1の誘導を行うかについて調べた。その結果、TPOによるPDK-1の誘導が確認された。HIF-1阻害剤であるEchinomycinやsiRNAを用いHIF-1αの発現を抑制した場合にはPDK-1の発現は抑制された。これより、TPOによるPDK-1の誘導はHIF-1を介したものであることがわかった。次いで、PDK-1がTPO刺激後の活性酸素産生に及ぼす影響を検討した。その結果、HIF-1αをノックダウンしたクローンではTPO刺激後のROS産生の遷延化を認めた。また、PDK-1の阻害剤であるDichlroacetate処理やsiRNAによりPDK-1の発現を抑制した場合にも、TPO刺激後の活性酸素産生が遷延した。これらの結果より、HIF-1によるPDK-1の発現誘導はTPO刺激に伴う活性酸素産生をオフにするための機構として作用することが示唆された。
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