造血幹細胞由来である単球のランゲルハンス細胞への運命決定における組織環境の重要性について研究を進めている過程において、昨年度は、造血幹細胞の生着、生存、分化、増殖には細胞がおかれている組織環境だけでなく、細胞側の特性あるいはその変化も大きく関わっていることを明らかにしてきた。これらのことを踏まえて、本年度は次のような知見を得た。(1)1個の造血幹細胞により造血系が再構築されたマウスを用いて、造血幹細胞の肝臓組織内での非造血細胞への分化について検討した。肝臓組織内にはドナー由来の非造血細胞が多数存在していたため、免疫組織学的手法を用いて、これらの細胞の同定を試みた。ドナー由来非造血細胞は肝類洞壁に見られ、vimentin陽性で、細胞質内に脂肪滴を含んでおり、glial fibrillary acidic protein (GFAP)、ADAMTS13、vimentinが陽性であり、肝星細胞であることが判明した。これらの肝星細胞はドナー由来の造血細胞とレシピエントの肝星細胞との融合細胞でないことをY染色体FISHにて確認した。造血細胞は肝組織環境では肝星細胞へ分化することができることを示している。(2)γδT細胞の腫瘍であるγδ型T細胞リンパ腫(γδTCL)とαβT細胞の腫瘍であるαβ型T細胞リンパ腫(αβTCL)を含めた末梢性T細胞リンパ腫の遺伝子発現プロファイリングを解析した。肝脾γδTCLと肝脾αβTCLはγδTCLのグループ内に配置された。非肝脾γδTCLは遺伝子発現のプロファイリングの解析では多彩な疾患であった。これらのことは、腫瘍の発生する臓器(組織)環境が疾患の臨床的特徴と密接な関連があることを示唆している。本研究の成果は造血細胞の非造血細胞への分化、造血器腫瘍細胞の特性における組織環境の重要性を示している。
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