研究課題
昨年度までの研究で、鉄の利用障害における慢性貧血の病態には、肝臓で産生されるペプチドホルモンであるhepcidinの過剰発現が強く関与していることが示された。本年度は、hepcidinに関する臨床的および基礎的研究を継続した。(1) 造血細胞移植患者における血清hepcidinおよび他の造血・鉄代謝指標の解析造血系および鉄代謝が激変するヒトの造血細胞移植をモデルとし、定量的LC-MS/マス・スペクトロメトリー法を用いて、臨床検体中のhepcidinを測定し、病態との関連を解析した。その結果、血清hepcidin値が移植前から高値であること、移植後1週目にピーク値となること、また、多変量解析で、造血回復期の血清hepcidin値が赤血球造血の指標である網状赤血球数や可溶性トランスフェリン受容体と負の相関があることを示した。これらの結果は、hepcidinの発現が赤血球造血によって負に制御されていることを支持している。また、われわれは、当院における造血細胞移植患者の移植前の血清フェリチン値と予後について後方視的に解析し、移植前のフェリチン高値が治療関連死の危険因子であることを確認した。また、移植前の血清hepcidin値が、移植後の細菌感染症の危険因子であることも示した。これらの結果は論文化あるいは学会にて発表した。(2) heocidin発現・分泌制御機構の解明我々はヒトのhepcidin promoterをクローニングし、これを用いてルシフェラーゼ・アッセイを行い、IL-6以外でhepcidinのpromoter活性を変動させる未知の因子を検索し、現在までにいくつか同定している(未発表)。これらの因子の鉄代謝制御における生理的役割について、現在も研究を継続している。また、トランスフェリン受容体2、HFE、ヘモジュべリン、マトリプターゼ2などの鉄代謝制御に関わる膜蛋白の相互作用について、in vitroの系で研究を継続している。
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Haematologica 93
ページ: 1550-1554