研究概要 |
細胞内タンパク質のチロシン・リン酸化状態はPTK活性とそれを脱リン酸化するチロシン・フォスファターゼ(PTP)活性のバランスで決定される。IL-6刺激による骨髄腫細胞増殖では、JAK-STATおよびRas-ERK経路に加えてCD45-Lyn刺激伝達系が重要な役割を果たしていることを我々は報告してきた。 我々は、質量分析法によりCD45-Lyn刺激伝達系の下流エフェクター分子として解糖系の酵素群(乳酸脱水素酵素LDH,エノラーゼENO)を同定した。さらに、CD45陽性骨髄腫細胞においてIL-6刺激後に脂質ラフトでチロシン・リン酸化されるタンパク質、脂質ラフト外でチロシン・脱リン酸化されるタンパク質を質最分析法により複数同定した。その中には、熱ショック・タンパク質、thioredoxin類とともにpyruvate kinase M2(PKM2), LDH, ENO, phosphoglycerate kinase (PGK)などの解糖系の酵素が含まれていた。IL-6刺激に伴う腫瘍細胞特異的ピルビン酸キナーゼPKM2のチロシン・脱リン酸化がCD45発現骨髄腫細胞でのみ観察され、この現象はPTP阻害剤により消失したことから、CD45のPTP活性の関与が強く示唆された。PKM2など解糖系の酵素をコードする遺伝子群が腫瘍細胞で強発現していることがマイクロアレイ解析で報告されており、我々の解析でもIL-6刺激後の骨髄腫細胞株で解糖系酵素遺伝子の発現が上昇していた。PTP阻害剤がCD45陽性骨髄腫細胞のIL-6反応性増殖を抑制する実験結果を考慮すると、Lynの活性化に加えて、解糖系酵素の発現およびリン酸化状態がIL-6によるCD45陽性骨髄腫細胞増殖の重要な病理的一面を捉えていることが強く示唆される。
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