本研究では、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-I)感染細胞における細胞分裂期(M期)チェックポイント異常の分子機構を解明し、成人T細胞白血病(ATL)治療の標的となりうるかを明らかにすることを目的とする。前年度は、HTLV-I感染T細胞株やATL細胞において、M期チェックポイント遺伝子の一つであるCHFRの発現が異常メチル化により抑制され、これにより細胞の異常増殖がもたらされることを明らかにした。本年度は、この分子機構をCHFRのユビキチン化標的蛋白質であるAurora Aに焦点を当てて解析し、Aurora Aを標的とした新規ATL治療法開発の基礎的検討を行ない、以下の知見を得た。 1.CHFR発現抑制によるAurora Aの蓄積と活性化 HTLV-I感染T細胞株およびATL細胞においてAurora A蛋白質発現増強が見られ、CHFR発現と逆相関を示した。HTLV-I感染T細胞株にCHFR遺伝子を過剰発現させるとAurora A蛋白質発現が減弱したことから、HTLV-I感染T細胞におけるAurora A過剰発現はCHFR発現抑制によると考えられた。 2.Aurora A阻害効果の検討 HTLV-I感染T細胞株におけるAurora A発現をsiRNAでノックダウンしたところ、HTLV-I感染T細胞の増殖が抑制された。さらに、Aurora AはHTLV-1ウイルス蛋白質Tax依存性のIKKβリン酸化を亢進させることでNF-kB活性化を増強することを見出した。 3.Auroraキナーゼ阻害剤の効果 Auroraキナーゼ阻害剤の抗ATL効果をHTLV-I感染T細胞株およびATL細胞を用いて検討したところ、Auroraキナーゼ阻害剤はHTLV-I感染T細胞株特異的に細胞死を誘導し、ATL細胞の生存率も抑制することを見出した。以上の結果より、CHFRおよびAurora AはATL治療の標的となりうることが明らかとなった。
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