研究概要 |
多発性骨髄腫に対する標準的化学療法は一時的には奏功することが多いものの、腫瘍細胞を完全に排除することが出来ず、治癒を得ることは極めて困難である。その理由として、骨髄stroma細胞と腫瘍細胞の相互作用によって惹起されるde novoの抗癌剤耐性の関与が想定されているが(Cell adhesion mediated drug resistance, CAM-DR)、その分子機構は完全には明らかとされていない。本研究ではWntが細胞接着や増殖を制御する因子であることに着目し、血液腫瘍におけるWntの発現と抗癌剤耐性への関与を解析した。まず、各種細胞株でのWntの発現と、ストローマ細胞への接着性を比較解析した後に、Doxorubicn処理後のstroma細胞存在・非存在下における生細胞数を算定することで、薬剤耐性を検討した。その結果、今回検討した4種の骨髄腫細胞株すべてにおいてWnt3の発現が検出され、その発現量は骨髄腫細胞のstroma細胞への接着性と相関していた。高接着性・骨髄腫細胞株のうちの1つであるARH-77とstroma細胞の共培養でDoxorubicinに対する薬剤耐性は、stroma非存在下に比し有意に上昇したが、抗integrinβ1抗体あるいはWntinhibitorであるsFRP-1によって約70%まで解除されたものの、抗integrinα4抗体で解除されなかった。さらにWntシグナルの下流を、Rho kinase inhibitor Y27632の添加により遮断すると、CAM-DRはstroma非存在下のレベルまで解除された。これらの結果より、骨髄腫において、Wnt3/RhoA経路はintegrinβ1依存性CAM-DRを惹起するために不可欠な役割をしている可能性が示唆された。今後、どのintegrinα鎖が用いられているか基礎的検討をすすめるとともに、Fasudilなど人体に投与可能なRho kinase inhibitorを用いる他、抗integrinに関する検討を進める予定である。
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