同種造血幹細胞移植には、移植片対宿主病や感染症以外にも多くの合併症がある。中でも肺や心臓の合併症は、患者のQOLを低下させるだけでなく、早期死亡や晩期死亡の原因にもなる。同種造血幹細胞移植後の遅発性非感染性肺合併症は移植後3ヶ月以上経過した患者において出現する致死的な合併症で、患者のQOLを大きく損ねる合併症の1つである。特に特発性肺症候群(IPS)や閉塞性細気管支炎(BO)の予後は悪く、有効な治療法は未だ確立されていない。本研究ではIPS及びBoの発症予測因子としての血清Surfactant Protein D (SP-D)の有用性について検討した。対象は血液疾患を有し同種移植施行後3ヶ月以上経過した患者56例、うちBO発症は5例、IPS発症は2例。これらの患者では、移植前のSP-D値は有意な低下を認めた。今回の研究から移植前SP-D値を測定することにより、BOおよびIPS発症の高リスク患者を予測し、悪化する前に対応することが可能となり、移植患者の予後の改善に寄与できる可能性がある。このように臓器障害のある患者に対して移植を可能にする方法として骨髄非破壊的造血幹細胞移植があるが、心機能、肺機能、腎機能、肝機能低下等の臓器障害を有する患者に対して確立された方法はない。本研究では、心機能低下例に対する骨髄非破壊的造血幹細胞移植の安全性と有効性を検討すると共に、心機能や自律神経機能が移植後どのように変化するかを包括的に評価した。移植前に心機能低下を認めた血液疾患患者5例に対し移植前、移植後心機能を評価し、同時に心拍変動解析を行い自律神経機能の評価を行った。1例に心不全の合併を認めたが、治療により改善した。また心拍変動解析(HRV)において移植後有意な変化を認め、心不全発症例においてその傾向は顕著であった。心機能低下症例においても骨髄非破壊的造血幹細胞移植は安全に施行可能であると考えられた。また移植後重症心イベント予測に対するHRV測定の意義を示唆する結果であった。
|