昨今、本邦では死因としての血栓性疾患の占有率が悪性新生物を上回る勢いで増大しており、血栓症に対する社会的な関心が高まっている。心筋梗塞や脳梗塞をはじめとした致死的な動脈血栓症は、血流の欝滞状況で生じる静脈血栓症とは異なり、早い血流下(高いずり速度下)で成立することが知られている。この高ずり速度下での血栓形成にはvon Willebrand因子(VWF)が主役を演じており、高ずり速度下でのVWF機能の適正な制御が致死的動脈血栓症対策にもっとも重要と考えられる。VWF機能は生体ではADAMTS13によって制御されており、動脈血栓症形成メカニズムの解明においては、VWFおよびADAMTS13両者の機能連関の解明が不可欠である。 以上の経緯から私たちは、ずり応力とADAMTS13活性との機能連関を検索する目的で、in vitro血液還流装置を用いたフロー実験をおこなった。その結果、ADAMTS13は高ずり応力下での血栓形成現場でVWFを切断し、リアルタイムにVWF機能ならびに血栓成長を制御していることが判明した。このADAMTS13のVWF切断メカニズムはずり応力依存性であり、血流に直接暴露される血栓外表面部に優先的であった。すなわち、血栓成長先進部ではVWFに血小板が結合することで、ずり応力によるVWFマルチマーへのストレッチング効果が増強されADAMTS13によるVWF切断活性が増幅されるのである。以上の成績から、生体では、<VWF>___、血小板、および<ADAMTS13>___の三者が、ずり応力のタクトの下で絶妙なハーモニーを奏でて、致命的な動脈閉塞を防御しつつ適正な止血血栓形成を司っていると想定された。今回明らかとなったADAMTS13のVWF切断メカニズムは、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)の病因論を明確に説明するのみならず、止血機転が機能した後に血管閉塞のみを特異的にブロックするユニークなものであり、止血機能と抗血栓機能とが両立する新世代型の抗血栓症戦略の可能性を示唆する。
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