白血病細胞の生存・異常増殖は複雑に制御されたメカニズムによる。種々の液性因子、例えばサイトカインなどの関与はその一つであるが、申請者らは神経栄養因子の一つであるBDNFを白血病細胞株が恒常的に産生していることを見出した。本年度ではBDNFの免疫細胞に対する影響を中心に解析することを目的とした。 1.ヒト末梢血細胞を用いたBDNFの細胞増殖反応及びサイトカイン産生への影響 ヒト末梢血細胞を調製し、細胞増殖反応を[^3H]-thymidineの取り込みによるDNA合成能により解析した。ConAにより誘導された増殖をBDNFは顕著に抑制した。またLPSで24時間刺激し、細胞上清中のサイトカイン産生をELISA法により測定した。IL-1β、IL-6、IL-10、IL-12p40が誘導され、BDNFはIL-12p40の産生を抑制した。 2.BDNFのレセプターであるTrkB発現誘導の検討 マウス脾臓細胞からCD4^+、CD8^+、B220^+細胞を磁気ビーズ法により分離し、抗CD3抗体或いはLPSで刺激し、24時間後にharvestした。その細胞溶解液を用いてウエスタンブロットを行った。CD4^+細胞を抗CD3抗体で刺激した場合に、TrkBの発現誘導が認められた。 3.CD3刺激及びBDNFによる制御性T細胞の誘導の検討 マウス脾臓細胞からCD4^+細胞を分離し、抗CD3抗体或はBDNFにより48時間刺激しharvestした。その細胞溶解液を用いて、ウエスタンブロットを行ったところ、抗CD3抗体及びBDNFにより、制御性T細胞のマーカーであるFoxp3の発現誘導が認められた。 以上より、白血病細胞から産生されるBDNFは免疫システムに作用し、抗腫瘍効果を持つサイトカイン産生の抑制や制御性T細胞の誘導により、白血病細胞増殖の環境を整えている可能性が示唆された。
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