本研究では重篤な呼吸器感染症を引き起こすSARSコロナウイルス・高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)ウイルスに対して、ウイルス側および宿主側因子を各々操作することにより、複雑なウイルス病原性(Pathogenesis)のメカニズムを明らかにすることが目的である。 SARSコロナウイルス持続感染細胞のウイルスゲノムを解析した結果、構造タンパク質であるスパイク(S)タンパク質に4か所、及びメンブレン(M)タンパク質に1か所アミノ酸変異が認められた。この持続感染細胞より産生される子孫ウイルスは粒子中のSタンパク質の取り込み量が少ないことが電子顕微鏡観察より分かっていることから、S、 Mおよびエンベロープ(E)、ヌクレオキャプシド(N)タンパク質の発現プラスミドを細胞に導入することによりウイルス様粒子(VLP)システムを開発し、S、 M遺伝子中の各変異が粒子形態に与える影響を解析した。その結果、S遺伝子のレセプター結合部位中のY442CおよびL472FがSタンパク質の取り込み率低下に関与することが明らかとなった。また、アミノ酸変異に加えて、機能不明なORF7-8領域に遺伝子欠損が認められた。欠損部位の遺伝子配列の解析から、この欠損はNon-homologousリコンビネーションであることが示唆された。現在このリコンビネーションの分子メカニズムを解析している。 加えて、インフルエンザウイルスの子孫ウイルス粒子産生量と細胞傷害性の関連についても検討している。
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