研究概要 |
本年度は、欧米ならびに東アジア地区で多剤耐性Acinetobacter baumaniiのカルバペネム系薬に対する耐性因子として注目されているクラスDに属するβラクタマーゼに関する研究を実施した。実施した予備検討の結果、遺伝子の発現は認めないものの約20%の臨床材料から分離されたA.banmanniiが、クラスDに属するβラクタマーゼ、OXA-23を保有することが明らかとなった。さらに、この中にはOXA-23の発現に関与するISAba1を保有する菌株が存在していた。本邦ではいまだクラスDに属するカルバペネマーゼに関する報告はないが、今後の動向に注視する必要があると考えられた。さらに、至急クラスDに属するβラクタマーゼ産生株の検出法構築が必要であると考えられた。 一方、日本近海を含む海洋由来Shewanella属菌を対象にOXA-型βラクタマーゼをコードする遺伝子の保有状況に関して検討を加えた。その結果、水深5,000m以上の深海、北極海ならびにリビングストン島(南極)といった極限環境に生息するShewanella属菌からもOXA-型カルバペネマーゼ遺伝子が検出された。OXA-型βラクタマーゼが染色体からプラスミドに移動したのは、約20億年前と推定されている。20億年前にカルバペネム系薬産生菌が存在したとは考えにくく、βラクタマーゼには「βラクタム環加水分解」とは異なる機能があることが示唆された。今回検討に供したShewanaella属菌は同一型の酵素をコードする遺伝子を保有しており、OXA-型βラクタマーゼ本来の機能について興味が持たれた。
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