研究概要 |
核蛋白質High Mobility Group Box 1(HMGB1)は催炎症性の可溶性蛋白でもある。本研究は体液中の可溶性HMGB1の生理的・病的変動の解析と、抗HMGB1抗体およびHMGB1特異的T細胞のエピトープの解析により、HMGB1免疫応答の制御機構の一端を解明することを目的とする。本年度は自己免疫疾患における抗HMGB1抗体のエピトープを明らかにした。 171人の自己免疫疾患患者および17人の健常人血清における抗HMGB1抗体の陽性頻度はSLE51%(24/47)、PM/DM36%(14/39)、強皮症29%(4/14)、ベーチェット病22%(2/9)、RA16%(9/56)、成人スチル病0%(0/6)、健常者0%(0/17)であり、自己免疫疾患患者全体での陽性率は33%(57/171)であった。HMGB1はbox A-linker(L)-box B-joiner(J)-tailの各領域よりなる。抗体陽性のSLE患者血清と7種類のHMGB1ペプチド(A,AL,LB,B,BJ,ALB,ALBJ)による解析では複数のエピトープの存在が示唆された。特に66.7%(8/12)の患者がペプチドAを認識し、ペプチドBを認識する血清は3/12(25%)と少なかった。joiner領域を含む合成ペプチドとの反応性はSLEの75%(9/12)、PM/DMの14%(1/7)で認められ、joiner領域はSLE患者で有意に高頻度に認識されるエピトープであることが確認できた。SLEでの抗HMGB1抗体価と疾患活動性との間には相関が認められたが、治療後の抗体価の低下においてはエピトープ間で差が見られ、特にBJとの反応が低下する傾向がみられた。joiner領域を含むアミノ酸残基163-168(AKGKPD)と同一の配列は種々の病原微生物の蛋白質内に認められ、このことから感染が引き金となって分子相同性に基づいたHMGB1に対する自己免疫反応が引き起こされる可能性も考えられた。 今後、joiner領域に対する抗体がSLEの診断や疾患活動性のマーカーとなり得る可能性を検証するとともに、抗体の誘導に関与する抗原特異的T細胞の解析、ならびに、高感度の可溶性HMGB1測定系による生理的レベルの変動解析を行ない、抗体レベルの変動と抗原(HMGB1)レベルの変動の相互関係を調べる予定である。
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