細胞膜のスフィンゴ脂質が血管新生の、細胞分化、アポトーシス、炎症などに関与していることが報告されている。我々は関節リウマチ(RA)患者においてスフィンゴシンの代謝物(生理活性物質)であるスフィンゴシン1リン酸(S1P)の受容体(S1P_1)がRA滑膜細胞に存在し、S1Pがサイトカインにより誘導されるプロスタグランジンE2の産生を増強させることを示した。その機序として、S1Pの滑膜細胞へのCOX-2誘導作用を介していた。RA患者滑膜組織では、スフィンゴシンキナーゼ(Sphk1)が強く発現し、S1P産生を惹起していることも証明された。さらに、関節液中のS1P濃度もRA患者ではOA(変形性関節症)患者より高い濃度であった。関節炎の自然発症モデルマウスであるSKGマウスを用いて、S1P_1受容体のブロックによる治療効果を検討した。FTY720は冬虫夏草の一種から合成され、生体内でSphkによりリン酸化され、S1P受容体のアンタゴニストとして作用する。その後、S1P_1のダウンレギュレーションを誘導し、T細胞上の受容体の発現抑制状態をきたす。すなわち、S1P_1のインヒビターとして作用する。その結果、胸腺やリンパ節からのT細胞の移出が阻害され、循環T細胞の著しい減少が誘導された。FTY720は連日経口投与し、約4週間と8週後に関節炎スコアーとX線で関節炎の抑制効果と関節破壊抑制をコントロールと比較した。その結果FTY720は有意に関節腫脹を抑制した。末梢血中のリンパ球数は減少し、胸腺の細胞数は増加し、脾臓ではT細胞の比率が低下していた。FTY720はT細胞の末梢への移出を抑え、関節局所の炎症を抑えることが推察された。我々はシェーグレン症候群の唾液腺細胞において、S1PがTh17への分化誘導へのFTY720がTregへの分化誘導に影響することを認めている。また、S1P/S1P_1シグナルがRANKL発現を介して骨破壊を促進することも示されている。FTY720は多発性硬化症、腎移植後の拒絶反応抑制での有用性が示されているが、今後、RAへの臨床応用が期待される。
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