研究概要 |
主に新生児期にてんかん発作で発症し,重度の発達遅滞をきたすことが多い大田原症候群は,1976年に大田原らによって世界に先駆けて日本で報告・確立された代表的な年齢依存性てんかん性脳症であり,乳児期にウエスト症候群に変化する。私たちは,大田原症候群の病態にも介在ニューロンが関与していると考え,GABA作用性の介在ニューロンの発生に関与するARX遺伝子の変異スクリーニングを行った。その結果,大田原症候群の2症例で,これまで精神遅滞(2〜3残基追加)やウエスト症候群(7残基追加)で報告されていたポリアラニン配列の伸長変異よりもより長い(11残基追加)伸長変異をみいだした。ポリアラニンの伸長変異は,長さに比例して転写抑制機能が増強する機能獲得変異である。よってより長い伸長変異は下流遺伝子のより強い転写抑制を起こし,発現細胞である介在ニューロンの機能異常をきたし症状の重度化と発症の早期化をきたすと推測される。この成果によって,大田原症候群が,私たちの予想通り,介在ニューロンの機能異常により生じることが証明された。また,これまで不明であった年齢依存性の発症機序・病態が明らかにされた。抗てんかん薬の作用機序は,グルタミン酸の神経伝達阻害,電位感受性Naチャネル阻害,T型Caチャネル抑制,GABA作用性神経伝達亢進に分けられる。介在ニューロンの機能異常が病態に関与するてんかん発作では,GABA作用性神経伝達亢進作用を有する薬剤(バルプロ酸,ベンゾジアゼピン系,ゾニサミドなど)の選択的使用が有用であることを示唆する成果が得られ,実際の治療にも反映できる可能性がある。
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