本研究者は、生体制御においてL-arginine/NOS/NO系(以下NO系)とPRMT/ADMA/DDAH系(以下ADMA系)の均衡が重要であるという仮説を持っている。この観点から、肝-腎-血管、肝-肺-血管などの多臓器連関の(病態)生理を探究し、新規の治療法の開発を目指している。2007年度のおもな研究成果は以下のとおりである。 (1)血中ADMA値は胎児・新生児で最も高く、小児、成人に向かうにつれて低くなった。未熟な血管系の緊張維持にADMA系が直接に関与する可能性が示唆された。(2)肝障害をほとんど有さない先天性肝内門脈-静脈シャントの患者では血中ADMA、endothelin-1(ET-1)値が高く、血中NO値が低く、血中TBARS、尿中acrolein-1ysineの酸化ストレスマーカーが高かった。門脈-静脈シャント自体が酸化ストレス亢進、血管内皮機能不全をもたらすことが示された。(3)先天性尿素サイクル異常(OTC、ASS、ASLの各異常)を有しアルギニン補充を受けている患者では、OTC異常で血中NO値がアルギニン値に正相関して高く、ASS、ASL異常ではADMA値がシトルリン値に正相関して高かった。特にASS異常ではADMA/NO比が高く、血管内皮機能不全の存在が示唆された。(4)血球貪食性リンパ組織球増殖症のトルコ人の3歳男児において、Heme oxygenase-1(HO-1)の活性中心でのホモ型ミスセンス変異(Gly139Val)、各種の血管内皮障害マーカー、酸化ストレスマーカーの高値、そして、腎臓・骨代謝障害が見出された。(5)先天性尿路異常症患者で各種の尿中酸化ストレスマーカーを計測したところ、機能的に単腎かそれに近い状態(多嚢腎など)で尿中acrolein-1ysineが高かった。これらの疾患群での酸化ストレス亢進が示された。以上はすべて過去に報告のない知見である。
|