研究概要 |
最近の分子医学の進歩により先天性心疾患の責任遺伝子が数多く同定された。しかし母体への薬剤投与やウイルス感染などの環境因子も重要である。我々は催奇形作用のあるレチノイン酸(RA)を妊娠マウスへ投与する時期を変化させ、ヒト先天性心疾患に近い幅広いスペクトラムの心奇形を発症させた。詳細な解剖診断を行うとともに、薬剤と遺伝子の関係を明らかにするために、流出路での遺伝子プロフィールを検討した。[方法]妊娠マウス6.5,6.75日齢にRA 20mg/kgを、妊娠マウス8.5,9.0,9.5日齢にRA70mg/kgを腹腔内投与した。DiGeorge症候群(DGS)の表現型を示した9.5日投与では、10.5日に流出路組織をDNAmicroarrayにかけた。[結果]6.5日投与(n=78)では、内臓錯位やCAVCなど左右軸と流入路障害およびTGA,DORV,PAなどの流出路異常が、6.75日投与(n=12)の一部でHLHSが発症した。8.5日投与(n=40)ではTGAやDORVなど動脈幹中隔の螺旋異常が、9.0日投与(n=21)と9.5日(n=32)投与ではPTA,TOF,AP windowなどの動脈幹中隔異常が各々28%と11%、RSCAなどの大動脈弓異常が55%と69%、胸腺異常が55%と75%発症した。9.5日投与の流出路では362の発現低下(<x0.5)と24の亢進(>x2.0)遺伝子が確認され、中でもFox転写因子,細胞接着にかかわる遺伝子の低下が認められた。[結語]妊娠マウスへのRA投与により臨床でみられる幅広いスペクトラムの複雑心奇形が作成できた。RA早期投与で左右軸および流入路障害とHLHSが発症したこと、後期投与でTGAおよびDGSの流出路障害が発症したことは心奇形の成因を考える上で意義深く、先天性心疾患の発症予防には各々の時期の心臓形態形成にかかわる転写因子群に影響する薬剤や感染を除去することが重要と考えられた。
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