研究概要 |
本研究では、志賀毒素(Stx)産生型腸管出血性大腸菌感染による溶血性尿毒性症候群に伴う急性脳症(HUS脳症)の発症機序に関するグリア細胞の役割について基礎的研究を行う。(目的)Stx刺激による正常ヒトアストロサイト細胞でのIL-8,MCP-1などのケモカイン発現とStx-reseptor(Gb3)発現能に与える影響を検討した。(結果)1. 正常ヒトアストロサイト細胞におけるGb3の発現:Gb3/CD77抗体を用いて蛍光免疫染色を行い、Gb3の発現を確認した。2. 炎症性サイトカイン(IL-1β,TNF-α)刺激によるGb3の発現:10^<-6>MのIL-1β刺激で、Gb3の発現は免疫染色で増強することを示した。3. IL-1β,TNF-α刺激で、Gb3関連酵素(Ga1T6)mRNA発現誘導の確認:IL-1β刺激8時間後に、GalT6 mRNAの発現はコントロールに比べて有意に上昇していた(P<0.05)。4. Stx刺激によるヒトアストロサイト細胞でのケモカイン産生:Stxで24-48時間刺激されたヒトアストロサイト細胞で、IL-8,MCP-1のケモカインがELISA法で測定し有意に上昇していた。5. Stx刺激によるヒトアストロサイト細胞でのケモカインmRNAの誘導:10^<-10>~10^<-9>Mの濃度に調整したStxで8時間、24時間刺激してmRNAを採取し、real-time PCRでIL-8,MCP-1のmRNA発現を確認した。IL-8でコントロールに比べて256倍の有意な上昇を認めた。MCP-1も10^<-9>Mで11倍の上昇を認めた。6. StxとIL-1βの両方刺激でのIL-8mRNAの発現:Stx単独よりもStx+IL-1βの方が4倍IL-8 mRNAの発現は上昇していた. (考察)HUS脳症の発症について、志賀毒素(Stx)がヒトアストロサイトに関与する免疫反応を検討した。ヒト大脳血管内皮細胞以外にもアストロサイトにもGb3が発現しており、またIL-1βにより発現することが判明した。本実験は、Stxによる内皮細胞障害で脳血液関門が破綻し、Stxが流入した時にグリア細胞であるアストロサイトもStxに反応し、ケモカイン産生が誘導されることで、脳内での炎症の増強に関与し、HUS脳症発症の機序に関与することが示唆された。
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