本研究実績の概要として7年前から地域で行ってきた受動喫煙検診の詳細とその結果から得られたエビデンスについて報告する。私どもは2002年から熊谷市の小学校4年生を対象に受動喫煙検診を行ってきた。この受動喫煙検診は児童の受動喫煙の生体内指標(バイオマーカー)としての尿中コチニン測定と両親へのアンケート調査からなる。尿中コチニンの測定は高感度ELISA法(測定感度は1.3ng/ml)を用いて行われる。児童に尿中コチニンが検出され、両親が禁煙を希望する場合のプロトコール等も確立された。2002年~2007年までは熊谷市医師会の予算、2008年からは市の公費負担によって無料で行われている。 この検診で明らかになった主な事項をあげると、(1)尿中コチニンが検出された児童は全児童の約30%~40%であり、年々減少傾向であった。(2)尿中コチニン濃度は両親(母親〉父親)の喫煙の影響を強く受けている。(3)両親が喫煙する児童では、場所はどこであっても尿中コチニンが検出される。(4)喘息、歯周病、低身長等の既往がある児童では尿中コチニン濃度が高い。(5)母親が妊娠中に喫煙していた児童では体格変化が見られる。(6)翌年尿中コチニンを再検すると濃度の低下がみられる。(7)児童に尿中コチニンが検出された場合は、両親への禁煙に対する誘導が見られる、等々である。 本検診は小学校4年生の希望者全員を対象に、同じく4年生で実施される生活習慣病検診と時期を遅らせて行っている。従って、生活習慣病検診から得られる脂質関連の検査値との比較もでき、メタボリック症候群や肥満などと受動喫煙の関係を調査するには極めて有意義であると考えている。また、数年後にはタバコ煙の中に含まれるニトロサミン等の発がん物質の測定が可能になる事が期待され、それらを検診項日に追加できれば一層のインパクトがあると思われる。
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