川崎病は原因不明の血管炎である。免疫グロブリン無効の重症例では冠動脈瘤の発生率が高く、重症例に対する新たな治療法の確立は社会や患者団体の求めるところである。我々は、血管透過性の亢進とこれに続く血漿タンパクの漏出(plasma leakage)による浮腫が重症川崎病のひとつの特徴であることを報告してきた。本研究では、川崎病血管炎におけるリンパ系システムの再構築の分子基盤を明らかにし、重症例の新たな治療に役立てることを目的とする。初年度は、リンパ管新生分子であるVEGF-CやVEGF-Dの関与が川崎病に認められるかをインビトロで検証した。 1)ELISA法により、血中のVEGF-C、VEGF-Dの濃度を熱性対照患者との比較でおこなった。その結果、VEGF-Cでは有意差を認めなかったが、VEGF-Dでは川崎病の回復期に有意に増加することが判明し、VEGF-Dが川崎病の治癒機転に何らかの役割をしていることが示唆された。 2)DNAマイクロアレイを用いて、末梢血球中のこれら分子のmRNAを熱性対照患者との比較で解析した結果、末梢血球からの産生はみられず、組織からの産生が示唆された。 3)RT-PCR法を用いて、DNAマイクロアレイの解析結果でも同様の結果であった。 4)川崎病剖検組織において、VEGF-D及びその主たる機能的受容体(VEGFR-3)の発現を免疫組織化学的に解析した結果、遠隔期川崎病や対照組織と比較して、VEGF-Dは浸潤単核球や心筋組織、血管内皮に発現、また受容体はリンパ管内皮に発現していた。以上より、川崎病血管炎において、VEGF-Dが何らかの役割をしていることが示唆された。
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