川崎病は原因不明の乳児の血管炎である。免疫グロブリンが無効の重症例では冠動脈瘤の発生率が高く、新たな治療法の確立されていない。我々は、血管透過性の亢進とこれに続くplasma leakageによる浮腫が重症川崎病のひとつの特徴であることを報告した。本研究では、川崎病血管炎におけるリンパ系システムの再構築の分子基盤を明らかにし重症例の新たな治療に役立てることを目的とした。 まず、リンパ管新生分子であるVEGF-Dの関与が認められるかをインビトロで証明した。血中VEGF-D濃度が川崎病の回復期に有意に増加することが判明し、VEGF-Dが川崎病の治癒機転に何らかの役割をしていることが示唆された。DNAマイクロアレイを用いて、末梢血球中のこれら分子のmRNAを熱性対照患者との比較で解析した結果、末梢血球からの産生はみられず、組織からの産生が示唆された。RT-PCR法を用いて、DNAマイクロアレイの解析結果でも同様の結果であった。川崎病剖検組織において、VEGF-D及びその主たる機能的受容体(VEGFR-3)の発現を免疫組織化学的に解析した結果、遠隔期川崎病や対照組織と比較して、VEGF-Dは浸潤単核球や心筋組織、血管内皮に発現、また受容体はリンパ管内皮に発現し、リンパ管内空面積の拡大からリンパ管新生を示唆する所見であった。さらに、VEGF-Dは冠動脈瘤患者の回復期では有意に低値であることが判明した。インビトロで、冠動脈内皮細胞をTNFで処理すると、VEGF-Dの産生が抑制されることが判明した。以上より、川崎病血管炎において、VEGF-Dが血管炎の修復機転に大きな役割をしていることが示唆された。冠動脈瘤患者ではリンパ系システムの治癒機転が遅れていることが示唆された。
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