研究概要 |
マリネスコーシェーグレン症候群(Marinesco-Sjogren syndrome=MSS)は,常染色体劣性遺伝の全身性疾患であり,臨床的に,小脳失調(萎縮),精神発達遅滞,先天性白内障の三徴を呈する.我々は臨床的にMSSと診断された13例全例に対し,ミオパチー,骨格筋線維に縁取り空胞(RV)の存在,SIL1遺伝子の変異を認めた.昨年,電顕観察にてERの形態学的異常を観察するとともに,免疫組織学的検討にて,ERシャペロン蛋白,オートファジー関連蛋白の核周囲での蓄積を見出し,ERが病変の首座であることを本学会で報告した.SIL1は小胞体(ER)シャペロン蛋白であるBiPのATP-ADP交換因子であり,ERでの分泌糖蛋白の翻訳,フォールディングに関わる重要な役割を果たしていると考えられているため,フォールディング出来ない蛋白の蓄積により,ERストレスが引き起こされ,オートファジーを誘導しているのではないかと仮定し,以下の研究を行った.【対象・方法】臨床病理額的にも遺伝学的にもMSSと診断された13例のうち,解析に十分な検体量の得られた7例について,小胞体ストレス応答(UPR)について,XBP1遺伝子のスプライシング変化,BiP mRNAの発現応答,eIF2αのリン酸化の解析を行った.【結果】コントロール群に比し,BiP mRNAの発現は上昇し,XBP1遺伝子のスプライシングは誘導されていた.eIF2αのリン酸化の亢進も見られた.また,これらUPRは病理学的に各々の骨格筋線維のRVの量と関連が見られた.【考察】SIL1の機能損失がBiPの機能不全を引き起こし,ERに異常蛋白の蓄積を来たした結果,ERストレスを生じていると考えられた.MSSで見られるRVはERストレス誘導性オートファジーが原因であると考えられた.
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