【本研究の目的】本研究の目的は、急性巨核球性白血病(AMKL)の発症機構を分子生物学的に明らかにすることである。特に、各々X染色体と21番染色体上にある巨核球・赤芽球系転写因子GATA-1とBACH1の機能に注目しAMKLの発症機構と表現型獲得の機構を明らかにする。 【平成21年度の研究結果】ダウン症関連急性巨核球性白血病およびその前段階である一過性白血病様反応においては、GATA-1遺伝子の変異がほぼ全例にみとめられる。しかし変異したGATA-1の機能については明らかになっていない。本研究では、ダウン新生児の約一割にみられる一過性白血病様反応(TMD)においては、ほぼ全例で芽球に幹細胞増殖因子(SCF)のレセプターであるc-KITが発現していることを明らかにした。また、この因子を添加することにより培養系で芽球の増殖が促されることを見出した。TMD同様にGATA-1遺伝子に変異を持つダウン症関連AMKL細胞株を用いて、SCF刺激後に活性化されるシグナルカスケードを検索したところ、RAS-MAPKカスケードおよびPI3K-AKTカスケードが活性化されることが示された。c-KIT、MAPK、PI3Kの阻害剤がいずれもこの細胞株の増殖を阻害することから、ダウン症関連白血病細胞の増殖にはSCFからの刺激とその下流にあるこれらのシグナルカスケードが重要であることが明らかになった。c-KIT遺伝子はGATA-1によってその発現が負に抑制されることが知られていることから、GATA-1変異によるc-KITの発現制御不全がダウン症関連白血病の発症に関わっている可能性が示された。
|