1) 遺伝子変異復帰症例の解析;X-SCIDは通常、T細胞ならびにNK細胞を欠損し、複合免疫不全症の病態を示すが、本研究ではOmenn症候群様の異常T細胞増殖と重症皮膚病変を示した症例の病態を解析した。その結果、皮膚に浸潤するT細胞には共通γ鎖遺伝子に第二変異が起こっていることが確認された。本来の変異によりスプライス異常のため蛋白欠損となるべきものが、第二変異によりスプライス異常が回避されT細胞のクローン性増殖と活性化が惹起されたものと推定された。これまでの研究でも、多様な第二変異あるいは遺伝子変異の復帰により増殖したクローンが病態を修飾している症例を経験しており、本症例はこれまでの一連の研究と関連して、わずかなクローンに生じた新たな変異が臨床症状に多大な影響を及ぼすという、原発性免疫不全症ならではの現象を確認することなった。 2) 自己免疫疾患におけるT細胞抗原受容体解析;原発性免疫不全症においては、特定の付加的遺伝子変異を有するクローンが病態に影響を及ぼすことが明らかとされたが、本研究では、T細胞が関与することが推定されている自己免疫疾患の一つとして甲状腺疾患を対象として解析した。TCR構造解析の手法を用いて、様々な病期にある慢性甲状腺炎、あるいはバセドウ氏病の患者について、解析を施行した。その結果、1) バセドウ氏病ではTCR構造の多様性に異常はほとんどみられないこと、2) 経過の長い慢性甲状腺炎症例では多くの場合にTCR構造の多様性に偏りが見られることが明らかにされた。この結果は、甲状腺にリンパ球浸潤が起こることを特徴とする慢性甲状腺炎などでは、CD8^+T細胞が病態形成/遷延化に強く関与していることを示唆している。
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