研究概要 |
造血幹細胞・臓器移植後の免疫不全状態に伴って、様々なウイルス感染症が合併する。これらの早期発見・治療効果判定法は未だ標準化されていない。本研究の目的は、マルチプレックス(複数・同時測定)定量PCR法による複数ウイルスの同時モニタリングシステムを確立・標準化することである。複数ウイルスを同時解析することで、免疫不全状態におけるこれらウイルス疾患の発生機構を解明し、予防および効果的な治療に役立てることを目指している。今回、我々は移植後の出血性膀胱炎・腎症の原因となるBKV、JCV、およびアデノウイルスの3つのウイルスに対して異なった蛍光プローブを用い、同一チューブ内で同時測定するマルチプレックス・リアルタイムPCR法を世界に先駆けて確立した。BKV、JCV、およびアデノウイルスを、それぞれFAM,JOE,Cy5で標識したプローブを設定した。これらの領域を組み込んだプラスミドを各々構築し、定量の標準コントロールとした。コントロールプラスミドを用いて標準曲線を作成したところ、各ウイルス5〜5×10^6copyの範囲で良好な直線が得られ、検出限界は約10 copy/assayであった。また、シングル及びマルチプレックスの定量結果を比較したところ、各ウイルス共に強い相関が見られ、両測定系に差はないことが分かった。以上より、マルチプレックス・リアルタイムPCR法によるBKV、JCV、アデノウイルスの同時検出システムはそれぞれを単独で検出する従来の方法と比べて定量性に差はなく、有用な測定系であることが示された。本法を用いることで、3種類の異なったウイルスを同時に測定できるため、迅速な移植後ウイルス感染症のモニタリングが可能になる。移植後の腎・泌尿器ウイルス感染症のモニタリングが可能となり、移植成績の向上に貢献できると思われる。
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