我々は、ヒト神経芽腫(NB)の分化障害と、神経分化関連転写因子phox2b高発現の関係について検討を行っている。NB細胞株を用いて、神経分化関連転写因子の発現についてrea1-time PCR法、免疫染色法で検討したところ、NB細胞株(N type cell)は本来神経分化の際に一過性に発現する、phox2b、ASCL1遺伝子の高発現が維持されていること、一部の細胞では未分化神経幹細胞マーカーであるSOX10が高発現していることが確認できた。NB腫瘍より抽出したmRNAを用いてphox2b発現について現在検討を行っているが、Ganglion tumorより未分化なNeuroblastoma細胞でphox2b発現が高い結果を得つつある。NB細胞株にレチノイン酸(ATRA)を投与し分化誘導を行ったところ、ATRA投与開始2時間後より、ASCL1の、6時間後ごろよりphox2bの著しい発現抑制が見られたのち、神経突起を延長させ分化が誘導された。正常副腎ではASCL1、phox2b遺伝子はともに低発現であることより、これらの遺伝子群が一過性に発現するのではなく、高発現が維持されていることによって分化障害が維持されていると推測した。ASCL1遺伝子はDelta-Notch経路にかかわる遺伝子であること、phox2bと協調して働くことより、これらの遺伝子の高発現がDelta-Notch経路の恒常的活性化をもたらしていると推測し、NB細胞株にNotch阻害剤であるγセクレターゼを投与したところ、ASCL1遺伝子の発現抑制と、神経突起の延長傾向が見られた。また、RNAiによる発現抑制実験を行ったところ、phox2b遺伝子のsiRNAでは、phox2bのknock downによる分化誘導や、増殖抑制は見られなかった。phox2bはASCL1遺伝子と協調して働く可能性が最近示唆されているので、現在、phox2b、ASCL1のdouble knockdown実験を行っている。またRNAiによる効率的な発現抑制の条件を設定中である。 本研究により、NBの分化障害の原因として、phox2b、ASCL1遺伝子の高発現維持の可能性が強く推測された。本研究により、今後新たな分化誘導療法に対するアプローチが期待される。今後は、RNAiによるphox2b、ASCL1遺伝子の発現抑制による分化誘導の有無、phox2b高発現維持のメカニズム解明を進める予定である。
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