研究概要 |
我々は、ヒト神経芽腫(NB)の分化障害と、神経分化関連転写因子phox2b高発現の関係について検討を行っている。NB細胞株を用いて、神経分化関連転写因子の発現についてreal-timePCR法、免疫染色法で検討したところ、NB細胞株(N type cell)は本来神経分化の際に一過性に発現する、phox2b、ASCL1遺伝子の高発現が維持されていること、一部の細胞では未分化神経肝細胞マーカーであるSOX10が高発現していることが確認できた。NB腫瘍より抽出したmRNAを用いてphox2b発現について現在検討を行っているが、Ganglionturomaに対してより未分化なNeuroblastoma細胞でphox2b発現が高いという結果を得た(n;53,p=0.002)。NB細胞株にレチノイン酸(ATRA)を投与し分化誘導を行ったところ、ATRA投与開始2時間後より、ASCL1の、6時間後ごろよりphox2bの著しい発現抑制が見られたのち、神経突起を延長させ分化が誘導された。正常副腎ではASCL1、phox2b遺伝子はともに低発現であることより、これらの遺伝子群が一過性に発現するのではなく、高発現が維持されていることによって分化障害が維持されていると推測した。また、NB細胞株にNotch阻害剤を投与したところ、ASCL1遺伝子の発現抑制と、神経突起の延長が見られたが、phox2bの発現抑制は見られなかった。また、RNAiによる発現抑制実験を行ったところ、phox2b遺伝子のsiRNAでは、phox2bのknock downによる分化誘導や、増殖抑制は見られなかった。 本研究により、NBの分化障害の原因として、phox2b、ASCL1遺伝子の高発現維持とそれによるDelta-Notch経路の恒常的な活性化の可能性が強く推測された。また、Notch阻害剤の神経芽腫に対する新たな分子標的療法の可能性が示唆された。今後、RNAiによるphox2b、ASCL1遺伝子の発現抑制による分化誘導の有無、phox2b高発現維持のメカニズム解明、について検討を進めることにより、神経芽腫の分化障害、自然退縮のメカニズム、新たな分化誘導療法に対するアプローチを与えることが可能になると期待される。
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