血液凝固第VIII因子(FVIII)は、欠乏では重篤な出血(血友病A)を認め、増加では血栓形成を惹起するため、出血と血栓の相反する病態で極めて重要である。凝固促進にはトロンビンによるFVIII活性化が、過凝固抑制には活性型プロテインC(APC)による不活化が重要であるが不明な点も多い。従ってFVIII中心の凝固血栓形成やその抑制機序の解明は、血友病Aの治療戦略、血栓形成病態に応じた抗血栓凝固療法の発展に寄与する。従来の血液凝固研究は、内因系/外因系/凝固抑制系/線溶系に分けて展開してきたが、凝固過程は複数系が同時進行していく概念が最近支持されている。我々は、今まで注目されていないFVIII活性化・不活化機構における線溶系プラスミン(Plm)、凝固抑制系プロテインS(PS)、外因系(FVIIa)の役割について新しい知見を得た。PlmはFVIII活性を非常に初期段階で約2倍上昇させ、その後速やかに低下させるが、その反応にはPlmがFVIIIのA2とA3の両ドメインに結合して制御することが明らかになった。さらにリコンビナント蛋白やその変異株、合成ペプチド等を用いて、その必須結合部位を世界で初めて同定した。その結合部位はFIXaの結合部位とも重複しており、凝固過程中でのPlmのFVIIIへの作用は、FIXaにより制御されていた。またPSはAPCの補因子として過凝固抑制するが、PS単独でもFVIIIに直接作用することにより、リン脂質膜上でのFVIIIとFIXaの結合を阻害して凝固を抑制することが明らかになった。さらにFVIII上のPSの必須結合部位も同定することができた。さらにFVIIaはFVIIIを凝固初期相で極めて早く活性を4〜5倍上昇させ、その機序には重鎖Lys^<36>、Arg^<336>、Arg^<372>、Arg^<740>開裂が寄与していた。以上のように、FVIIIは内因系のみならず、線溶因子Plm、凝固抑制因子PS、外因系因子FVIIaがFVIIIに対して直接作用することにより制御されていることが判明した。
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