我々は過去の研究において、羊水腔内エンドトキシン投与が、ラット新生仔肺に肺胞表面積と肺胞数の減少をもたらすことを証明した。半径が大きく数が少ない肺胞は、ヒト早産児において生命予後を最も大きく左右する、子宮内炎症に起因するIII型慢性肺疾患と相同であると考えられた。この慢性肺疾患モデルに対して、ヒトの臨床で慢性肺疾患の治療に用いられるステロイドの生後投与の効果を、画像解析を用いて定量的に評価した。出生の前日に羊水腔内にエンドトキシン1μgを投与し、帝王切開により出生させた仔を里親ラットに哺育させた。デキサメタゾンを日齢1に0.1μg/g、日齢2に0.05μg/g、日齢3に0.025μg/g、日齢4に0.01μg/g腹腔内投与した。エンドトキシンとデキサメタゾンの対照には同容の整理食塩液を用いた。日齢7および14に肺を摘出して光顕標本を作成し、モルフォメトリー法により単位体積あたりの肺胞表面積と肺胞数および平均肺胞半径を計測した。エンドトキシン出生前投与により、肺胞表面積と肺胞数が減少し、平均肺胞半径は大きくなった。このエンドトキシンによる肺傷害はステロイド投与により軽減しなかった。一方で、ステロイド投与により日齢7には肺胞数増加が抑制されたが、この肺胞数増加抑制は一過性であった。この結果から、ステロイドの生後投与は子宮内炎症に起因する肺損傷を直接的には抑制しないと考えられた。また、子宮内炎症とステロイドの生後投与は異なる機序により肺胞数増加を抑制することが示唆された。
|