研究概要 |
平成19年度に我々は,マウス胎仔肝由来ストローマ細胞との共培養により,ヒト胚性幹細胞(ES細胞)から、赤血球系前駆細胞や多能性造血前駆細胞などの造血前駆細胞が分化誘導され,それらの前駆細胞から赤血球を産生することに成功した(IntJ Hematol 85:371-379,2007.)。そこで平成20年度は、ヒトES細胞から分化誘導される赤血球の性状と機能を検討した。 マウス胎仔肝由来ストローマ細胞と2週間共培養したヒトES細胞を血液細胞コロニー培養したところ、培養14日目には赤血血球から成る赤血球コロニーが形成された。そこで,赤血球コロニーに含まれる赤血球で発現されているグロビンのタイプを免疫細胞染色により検討すると、培養14日目の赤血球コロニーでは100%の赤血球がα及びγグロビンを発現していた。βグロビンを発現する赤血球は約60%であったが、培養期間を延長することにより、培養期間依存的にβグロビンを発現する赤血球の比率は上昇し,培養18日目にはほぼ100%の赤血球でβグロビンを発現していた。この結果は,我々の確立した分化誘導法により産生される赤血球では、コロニー培養14日目には全ての赤血球がα及びγグロビンからなる胎児型ヘモグロビン(HbF)を合成している一方、α及びβグロビンからなる成人型ヘモグロビン(HbA)は約60%で合成されており、その後培養期問を延長することにより、ほとんど全ての赤血球がHbAを合成するようになったことを示している。また、ヒトES細胞から分化誘導された赤血球の酸素結合能を検討してみると,その酸素結合能は、成人末梢血赤血球よりも臍帯血赤血球に類似していた。以上のことより、ヒトES細胞由来の赤血球造血は胎児期造血をよく反映していると考えられた(Proc Natl Acad Sci USA 105:13087-13092,2008.)。
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