発達期の中枢神経におけるprotease-activated receptor-1(PAR-1)の活性化制御は、神経細胞のみならず、グリア系細胞の分化にも寄与していること、また低酸素虚血等によるネクローシス障害にもアポトーシス細胞死にもPAR-1が強く関与していることを明らかにしてきた。今年度は、PAR-1に作用可能な、いわゆる一連の凝固線溶系蛋白群の中枢神経での発現を検討した。胎盤組織を陽性コントロールとした半定量PCR検索にて、PAR-1は多種類のヒト神経芽細胞腫、、グリア系腫瘍の細胞株で強い発現を確認した。これらPAR-1が発現している細胞種の中で、protease nexin-1はGOTO細胞などの神経芽細胞腫で発現が強いが、直接PAR-1の良好なリガンドとはなり得ないurokinase、plasminogen activator inhibitor-1、plasminogen activator receptor、thrombomodulin、vitronectinなどは、むしろグリア系細胞でより強い発現を認めた。PAR-1最強のリガンドであるthrombin活性を阻害するanti-thrombinIIIの発現がグリア系細胞よりも神経芽細胞腫GOTOでより強いことは興味深い。Protein Cに関してはGOTO細胞での発現は極微量であり、グリア系腫瘍であるA172やEP1にて強い発現を認めた。 これらの結果より、PAR-1のリガンドになり得る蛋白は神経細胞自らがautocrine制御しているが、グリア系細胞は凝固線溶系の活性バランス調節を介して間接的にPAR-1制御に作用することで、神経細胞の分化や障害防護に影響を及ぼしている可能性が示唆された。細胞防護の観点から、熱ショック蛋白であるheme oxygenase-1とPAR-1の関与についても検討予定である。
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