研究概要 |
Midkine(以下MK)は細胞増殖,分化など多彩な生物活性を有し,マウスでは妊娠中期の胎児諸臓器で高発現することが判明している.我々はMKがヒト妊娠中期の胎児副腎に高発現し,胎児肺成熟や分娩発来にも関わるコルチゾール産生を抑制している可能性を示してきた.これまで他の胎児臓器や羊水,羊膜など母児間コミュニケーションに関わる部分におけるMKの発現については不明であったが、我々は前年度までの検討で、MKが羊水中で高濃度に存在すること、羊水産生源でもある胎児肺と腎においてMKが副腎に次ぐ高いレベルの発現を示すことを明らかとしてきた。今年度の検討においては以下の成績が得られた。1)羊水MK蛋白濃度は妊娠中期の方が後期よりも3倍以上高濃度であった。2)羊水中では多量体を形成している可能性が考えられた。MKは組織トランスグルタミナーゼ(以下、tTG)の作用を受けて多量体を形成し安定化することが知られているが、羊水中にはtTGも高濃度に存在していた。2)羊膜上皮培養細胞に対してヒトリコンビナントMKを添加すると、プロスタグランジン合成酵素であるcyclooxygenase2(以下、COX2)mRNAが時間および濃度依存性に減少した。ヒト羊膜ではCOX2の発現は分娩の発来に向けて増強することが知られている。またMKは胎児臓器(特に肺や腎)には発現しているものの羊膜には発現していない。したがって、胎児由来のMKが羊膜に作用する「胎児シグナル」として働き、COX2の発現抑制などを介して妊娠維持に関与している可能性が示唆された。
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