研究概要 |
当該年度に実施した研究の成果について、その具体的内容、意義、重要性等 尋常性天疱瘡患者由来IgGおよび抗デスモグレイン(Dsg)3モノクロナル抗体(mAb)による表皮細胞内に生じる細胞内シグナル伝達機構、特にDsg3の消失とDsg3欠損デスモソーム形成に着目して検討した。 これまでの研究経過から、この系に関与している可能性のある候補キナーゼは、Src, EGF, RhoA, Fer, Fynなどであると考える。我々は本年これらのキナーゼの活性化や、Dsg3との結合性、また阻害剤によるDsg3の分解を検討した。その結果以下に示すような知見が得られた。 Src kinaseの関与に関する検討 抗体刺激後にSrcキナーゼの活性化の報告がある。さらに我々は培養表皮細胞にwound scratchをすると細胞の消失した空間に細胞が移動を開始した細胞で特異的にSrcの活性が観察され、天疱瘡抗体誘導Dsg3の分解が著明に増加することを確認している。そこで、Srcキナーゼの活性型を表皮細胞にTransfectionして、デスモソーム構成蛋白質の比率の変化を検討した。結果Dsg3は軽度減少、Dsg2が著明に減少した。Dsg3とDsg2の細胞外ドメインの分解機構が異なることが示唆された。 RhoAの関与に関する検討 抗体刺激後10から30分後にRhoAの活性型が増加し120分後に刺激前の状態に回復した。これまでに我々はDsg3の細胞膜からの分解にp120ctnが関与し、p120ctnはRhoAを不活化することが知られていたので、RhoA活性を阻害した状態で抗体刺激を加えDsg3の量をウエスタンブロッティングで検討した。Dsg3はRhoAの活性の変化に拘わらず抗体刺激により分解した。さらにRhoAの野生型、活性型、不活性型を細胞内に導入しRhoAの活性の変化によるDsg3の発現の変化を検討したところ、不活性型RhoAN19によりDsg3とβcateninの発現低下を観察した。RhoAの活性化はDsg3の分解に関与せず、長時間の不活性化はアクチン細胞骨格のリモデリングの阻害を介してアドヘレンスジャンクションとデスモソームに影響を与えている可能性が高い。 これらの結果から、デスモソームの形成分解にSrcとRhoAの直接もしくは間接的な関与が示唆される。さらに天疱瘡の新規治療開発に向け、解析を続ける予定である。
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