研究概要 |
STAT3の恒常的活性化体として働く変異体(STAT3-C)(Cys661をAlaに、また、Cys663をAsnに置換したもの)に対するアデノウイルスベクターを作製した。作製したアデノウイルスベクターAxSTAT3-Cを悪性黒色腫細胞株WM1205Luに感染させたところ、野生型および活性化型STAT3蛋白の発現がみられ、アデノウイルスベクターの有効性が確認された。AxSTAT3-Cを感染させたWM35細胞(STAT3がほとんど活性化されておらず、かつIL-8産生量がきわめて少ない細胞)の上清中のIL-8をELISAで測定したところ、IL-8産生量はコントロールに比べて約9倍になっていた。一方、2種類のsiRNA(si-1,si-2)によりWM1205Lu細胞(STAT3が活性化されており、かつIL-8産生量が多い細胞)内のSTAT3発現を抑制すると、2種類のsiRNA使用時はともにIL-8産生量はコントロールに比べて約半分になっていた。以上のことより、悪性黒色腫細胞においてSTAT3の活性化はIL-8産生を制御していることが明らかとなった。STAT3によるIL8産生制御が転写レベルで行われているかどうかを、ヒトIL-8遺伝子の5'-flanking regionの+44base pair(bp)より上流領域の長さをいろいろ変えた4種類のレポータープラスミド(-546-luc,-272-luc,-133-luc,-98-luc)を用いてルシフェラーゼアッセイを行い検討したところ、STAT3はIL-8のプロモーターの-272bp〜-133bpに存在することが示された。この領域にはSTAT3のputative binding site(TTCACCAAA)があることから、STAT3はこの部分への結合を介してIL-8発現を転写レベルで亢進させることが示唆された。IL-8以外に黒色腫細胞でSTAT3により発現が制御される物質を検索したところ、growth-related oncogene a(Gro-a)が有力な候補として見いだされた。
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